今週は、「無権代理人が本人を相続した場合」の説明をさせて頂きます。
無権代理人(悪いことした張本人)が本人の資格を相続した場合には責任を取る事で以上終了とお考えの方が多いのではないかなと思います。
しかし、本人を相続するのが、無権代理人だけでは無い場合にはどのようになるのでしょうか?
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■判例の解説
無権代理人が本人を相続
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判例の解説
それでは判例の解説に入ります。
~最高裁判所 平成5年1月21日 第一小法廷 判決~
貸金
~その内容を以下に物語にして説明します。~
登場人物や登場人物が考えた事等は、フィクションです。
今回は、登場人物が多く物語が複雑です。
そこで、時間の経過順に色んな人に登場して貰ます。
<中村さんと田中さんの登場>
中村さんは、お金にだらしない性格の人でした。
そんな人だと分かっている周りの人は、彼にお金を貸したりしません。
あ、一人だけ田中さんは、そんな中村さんを心配してお金を貸してくれます。
もちろん、田中さんも貸したお金は返して欲しいと考えています。
そんな状況で、中村さんは田中さんに対して更に借金を申し込みます。
さすがに田中さんもこれ以上お金を貸す事を躊躇います。
そこで、中村さんの遠い親戚の村島さんが連帯保証人になるなら
貸しても良いと返事をします。
中村さんは、考えました。
・・・村島さんが連帯保証人になってくれる事は絶対にない。
・・・しかし、お金は借りたい。
・・・どうしよう
色々考えた末に中村さんは、村島さんの息子に父の代理人として(もちろん父に内緒で、、つまり無権代理人です)連帯保証人になって欲しいとお願いしました。
<村島さん(息子)の登場>
村島さん(息子)は、中村さんがきちんと返済するのであれば問題ないと考え父の代理人(無権代理人)として田中さんと連帯保証契約を結びます。
<田中さんの登場>
田中さんは、村島さんが連帯保証人になったのに疑問を感じましたが深く考えずに中村さんにお金を貸します。
その後、田中さん自身にお金が必要な出来事が発生したので中村さんに貸したお金を回収する権利を山田さんに売ります。
<村島さんの登場>
村島さんは、息子がそのような事をしてるなんて知らないまま亡くなりました。
相続人となったのは、村島さんの妻と息子です。
<山田さんの登場>
山田さんは、中村さんから借金を回収するのは難しいと考え連帯保証人から回収しようと考えました。
しかし、連帯保証契約が、村島さん(息子)が無権代理人として契約した事を知ります。
そこで、村島さん(息子)とお話し合いをしますが、話し合いは決裂します。
<裁判(地方裁判所)>
山田さんは、村島さん(息子)に対して無権代理人として責任を取るように求めました。
しかし、裁判所は、「連帯保証契約の事実を認めるに足りる証拠はない」と判断します。
<裁判(高等裁判所)>
納得出来ない山田さんは、控訴します。
裁判所は、連帯保証契約の成立は認め以下の判断をします。
1. |
連帯保証契約時に田中さんに過失があったので無権代理人には責任が無い |
2. |
村島さん(息子)が、父を相続した範囲で連帯保証契約の責任を負います |
<裁判(最高裁判所)>
今度は、村島さん(息子)が高等裁判所の判断(2.)に納得できずに上告します。
裁判所は、「無権代理人が本人を共同相続した場合には、共同相続人全員が共同して無権代理行為を追認しない限り、無権代理人の相続分に相当する部分においても、無権代理行為が当然に有効となるものではない。」としました。
◆参考文献◆
有悲閣 家族法判例百選第7版 128、129頁
無権代理人が本人を共同相続した場合における無権代理行為の効力(後藤 巻則)
~補足1~
もし、今回の事例で母が無権代理行為(連帯保証契約)を追認した場合。
村島さん(息子)に拒否する権利はありませんので、責任を取らなければなりません。
~補足2~
もし、今回の事例で村島さん(息子)だけが相続人だった場合。
村島さん(息子)は、責任を取る事になります。
~補足3~
無権代理人の責任を規定した条文を民法より抜粋します。
第百十七条 |
他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。 |
2 |
前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき、又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない。 |