遺留分に関してのお話をしたいと思います。
今回は、遺留分の目的が土地などの時に、価格弁償をする場合にいつ時点の価格とするのかに関して争われた判例をご紹介します。
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■判例の解説
遺留分減殺請求における贈与または遺贈の目的物の価額算定の基準時
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判例の解説
それでは判例の解説に入ります。
~最高裁判所 昭和51年8月30日 第二小法廷 判決~
持分権移転登記等請求
~その内容を以下に物語にして説明します。~
登場人物や登場人物が考えた事等は、フィクションです。
今回の主人公は、猛さんです。
猛さんは、4人兄弟の末っ子でした。
上の兄達は、早くに独立して実家から離れたところに家庭を持っていますが猛さんだけは、親元でずっと生活していました。
現在の猛さんは、自分の妻子と父親と同居しています。
猛さんの母親が数年前に他界してから父親はすっかり弱くなってしまい寝込んでいる事が多くなりました。
猛さんは、このまま父親が亡くなってしまうと相続で兄弟と争いになってしまい、今住んでいる所から出ていかなきゃいけなくなるかなと悩み父親と相談し、遺言書を作成して貰う事にしました。
相続財産は、住んでいる家と土地だけでしたので遺言書には、全財産を猛に相続させるという内容にしました。
もちろん遺留分の問題がある事は、猛さんも父親も承知の上です。
遺言書作成の後、間もなく父は亡くなってしまいます。
そこで、相続が開始されたのですが、遺言書で全財産が猛さんのものとなってしまっています。
しかし、相続財産の内、土地はとても広くて何筆もあります。
その為、猛さんの兄弟は、納得出来ず遺留分減殺請求を行いました。
そこで、猛さん達は、土地の持分をどのようにするのかを話し合いします。
が、調停を行なっても話し合いが纏まりません。
結局、猛さんの兄弟は、裁判所に遺留分相当の土地の持分を自分達に移転する事を求めて裁判所に訴えました。
そうしましたところ、なんと猛さんは、土地の一部を売却してしまったのです。
そこで、猛さんの兄弟は、土地の持分を移転するのでは無く価格弁償を求めました。
猛さんも価格弁償を行う事に同意しましたので、争いは終わりかと思われましたが、、価格をいつ時点とするかについて争いが発生しました。
<猛さんの主張>
価格は、相続開始時と考えるべきです!
<猛さんの兄弟の主張>
価格は、口頭弁論終結時と考えるべきです!
※口頭弁論終結時とは、裁判所が判断する材料の提出期限と考えて下さい。
<裁判所の判断>
●売却した土地に関して
売却時点での一般的な取引価格とします。
(売却した価格では無く一般的に売買が行われる価格です。)
●残りの土地に関して
口頭弁論終結時とします。
◆参考文献◆
有悲閣 家族法判例百選第7版 194、195頁
遺留分減殺請求の目的物の価格算定の基準時(内田 貴)
~田中の考え~
今回の事例は、最初から争いが起きる可能性が高い事を承知で遺言書を作成したのではないかと思われます。
遺言書で遺留分を侵害するような遺贈等は禁止されているわけではありません。
ですので、相続される方が、争いが起きる事を承知の上であればこのような遺言書も可能です。
しかし、結局、裁判となってしまいますと、遺留分の価格以外に大きな費用が必要となりますので、最初から価格弁償をするように遺言書に記載する事も検討すべきかもしれません。
更にその価格弁償費用に相当する生命保険に入れば、相続人の負担は減ると思います。