『負担付死因贈与』契約と遺言書による『遺贈』のどちらが優先されるかについて争われた判例をご紹介します。
そもそも、『負担付死因贈与』って何?『遺贈』って何?と思われるかもしれませんが、判例の解説の後でご説明いたします。
<メニュー>
■判例の解説
遺言無効確認
■『負担付死因贈与』と『遺贈』の違い
判例の解説
さっそく判例の解説に入ります。
~最高裁判所 昭和57年4月30日 第二小法廷 判決~
遺言無効確認についての裁判です。
~その内容を以下に物語にして説明します。~
登場人物や登場人物が考えた事等は、フィクションです。
今回の主人公は、太郎さんです。
登場人物は、太郎さんと太郎さんの父・妹・弟です。
太郎さんは、とある年の春の連休で実家に帰った際に父から
「自分が死んだらの全財産をお前にやる。
その代わりお前が会社に勤めている間、毎月一定額の仕送りが欲しい。
更にボーナス月は別途金額を仕送りして欲しい。」
という申出をされました。
太郎さんは、仕送りをするのは大変だなと思いましたが
・ |
父も現金収入が無くて大変だろう |
・ |
父は不動産等を持っているが、それを売ってしまうのは切ないな |
・ |
自分は長男だからなんとかしてあげなければ |
と考えて、父の申出を受ける事にしました。
但し、父が亡くなって相続が発生した時に揉めるのは嫌だと考え契約書として残す事にしました。
※つまり、太郎さんと父の間に『負担付死因贈与』契約が締結されました。
その後、太郎さんは、契約通り会社を退職するまで20年近く仕送りを続け、父は、太郎さんが会社を退職後1ヶ月少したった日に亡くなりました。
太郎さんは、父が亡くなってしまったので、契約どおり父の全財産は自分のものであると思ってました。
ところが、父は、太郎さんと『負担付死因贈与』契約を締結した後に妹と弟に財産の一部を『遺贈』するという遺言書を作成していました。
その為、妹と弟は、父から財産の一部を貰えるものと思ってました。こうして「太郎さん」対「妹・弟」で父の財産を争う事になりました。
結局裁判で争う事になってしまったのです。
[裁判での「妹・弟」の主張]
父と太郎さんが締結した『負担付死因贈与』契約は、その後に父が行なった『遺贈』するという遺言書により取り消されたものとみなされる!
だから、財産の一部は自分たちの物だ。
[裁判での「太郎さん」の主張]
父と締結した『負担付死因贈与』契約の内容に従い、自分は契約内容である負担義務をきちんと履行したのであるから、全財産は自分の物です。
つまり『遺贈』する財産はもうないので遺言書は無効!
[裁判の結果]
・結論
「太郎さん」の主張の勝ち。
・理由
『負担付死因贈与』契約の負担を全部又はほとんど全部と言ってもいいくらい履行がされている場合には、『負担付死因贈与』契約が取り消されても仕方ないと思えるほどの特段の事情がない限り遺言により取り消されたものとみなされる事はありません。今回そのような特段の事情が見当たりません。
◆参考文献◆
有悲閣 家族法判例百選第7版 178、179頁
負担付死因贈与の受贈者による贈与者生前の負担履行と贈与撤回の可否
(鹿野菜穂子)
『負担付死因贈与』と『遺贈』の違い
『負担付死因贈与』
これは、死因贈与(第五百五十四条)と負担付贈与(民法第五百五十三条)が合体したものです。
今回の判例の登場人物等をカッコ内に入れて説明します。
<死因贈与の部分>
・ |
贈与者(父)の死亡により効力が生じる。 |
・ |
贈与者(父)が受贈者(太郎さん)と合意(契約)をする事。 |
・ |
撤回が制限されることがあります。 |
<負担付贈与>
・ |
受贈者(太郎さん)が贈与者(父)の面倒をみる(仕送り)。 |
『遺贈』
遺言によってする贈与のことをいいます。
今回の判例の登場人物等をカッコ内に入れて説明します。
・ |
贈与者(父)の死亡により効力が生じる。 |
・ |
贈与者(父)が受贈者(妹弟)に一方的にあげるという意思の表示。 |
・ |
書面によっていつでも自由に撤回することができる。 |
・ |
遺言書の作成が必要。 |
~今回解説した判例のような事を防ぐには~
『負担付贈与』の場合には、生前に負担がきちんと履行されると遺言書でその内容を取り消す事は難しいと考えられます。
その事を良く理解した上で『負担付贈与』をするようにしましょう。
もし、『負担付贈与』契約の負担が履行されない場合等には、きちんと『負担付贈与』契約を解除する等をしましょう。