内縁関係にある一方のパートナーが、亡くなった場合に生存する他方パートナーに財産分与が認められるかについて争われた判例をご紹介します。
ここをご覧になられる方で、内縁関係に該当される方がいらっしゃるかは不明ですが、関係ないやと思わないでご一読して頂ければと思います。
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■判例の解説
内縁の夫婦の一方の死亡により内縁関係が解消した場合に民法七六八条(財産分与)の規定を類推適用することの可否について
判例の解説
さっそく判例の解説に入ります。
~最高裁判所 平成12年3月10日 第一小法廷 決定~
財産分与審判に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
についての裁判です。
~その内容を以下に物語にして説明します。~
登場人物や登場人物が考えた事等は、フィクションです。
今回の主人公は、秋山さんです。
秋山さんは、夫と死別後にパート勤務やマンションの管理人として働いていました。
あるきっかけでタクシー会社を経営している道端さんと出会い交際をするようになりました。
しかし、その交際には問題がありました。
道端さんには奥さんと子供がいたのです。
ですが、交際は止むことなく道端さんは秋山さんのアパートに出入りするようになり、家賃等の負担も道端さんがしてくれるようになりました。
長い月日が流れ、道端さんの奥さんは亡くなり道端さんは病気の為、病院へ入退院を繰り返すことになりました。
秋山さんは、病院では、道端さんの為に夕食を作るなどのお世話をし退院した際には、秋山さん宅にて過ごしていました。
その間の生活費は、道端さんから秋山さんへ渡されていました。
そのような日々を過ごしていくうちに秋山さんは、老後の事が心配になり、道端さんに婚姻届を出す事を提案します。
ですが、道端さんは、応じてくれませんでした。
その代わりに財産分与として家を一軒買い与えると言ってましたが道端さんの気に入る物件が無いという理由で購入には至りませんでした。
その後、道端さんは亡くなってしまいました。
生活費を道端さんに頼っていた秋山さんは困ってしまいました。
そこで、道端さんの子供に道端さんの財産を分与するようにお願いをしましたが、断られてしまいます。
その為、裁判となってしまいました。
[裁判での秋山さんの主張]
民法の法律上の夫婦の離婚に伴う財産分与に関する規定(第七百六十八条)を類推適用し、道端さんの財産を相続した道端さんの子供に財産分与するように求めました。
[裁判の結果]
内縁の夫婦の一方の死亡により内縁関係が解消した場合に、民法七六八条の規定を類推適用することはできない。とされ、秋山さんの主張は退けられました。
※補足※
法律婚の解消時には、解消の原因に応じて2つの制度が設けられています。
内縁の解消時には、制度は設けられていませんが法律婚を準用している場合もあります。
以下、法律婚の解消時の制度の説明と内縁の解消時には準用されるのか等を記述します。
●法律婚の解消時(死別の場合) |
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配偶者の相続権
→ |
(民法第八百九十条抜粋)被相続人の配偶者は、常に相続人となる。 |
※ |
死別による内縁の解消の場合には、上記制度(配偶者の相続権)を準用する判例はありません。 |
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●法律婚の解消時(離婚の場合) |
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財産分与
→ |
(民法第七百六十八条)協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。 |
※ |
離別による内縁の解消の場合にも上記制度(財産分与)を準用する判例があります。 |
※ |
今回ご説明しました判例では、死別による内縁の解消の場合に上記制度(財産分与)を準用することを否定されました。 |
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◆参考文献◆
有悲閣 家族法判例百選第7版 46、47頁
内縁の解消と財産分与(大村敦志)
信山社 事実婚の判例総合解説(二宮周平)
~こうした事を防げないか?~
今回のケースでは、亡くなられたパートナーがどのように考えて婚姻届を拒否し、財産分与すると約束した家の購入を急いでなかったのかが重要な点ですが、遺言書を書いて貰うというのも選択肢にあって良かったのかもしれません。
内縁の場合には、法律上の保護が薄い状態です。
婚姻届を出さない理由は、様々だと思われますが、自分がいなくなった場合パートナーは、法律婚の妻と違い色んな事で不利な状況になる事をご理解の上で遺言書作成など出来る事をやって下さいますようにお願い致します。