特にドロドロした人間関係の中で作成された遺言書がどのような効力を生じたのかについての判例の中よりひとつをご紹介したいと思います。
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■判例の解説
不倫な関係にある女性に対する包括遺贈が公序良俗に反しないとされた事例
■用語の補足
・包括遺贈とは何か
・公序良俗とは何か
■編集後記
判例の解説
さっそく判例の解説に入ります。
~最高裁判所 昭和61年11月20日日 第一小法廷 判決~
不倫な関係にある女性に対する包括遺贈が公序良俗に反しないかについての裁判です。
~その内容を以下に物語にして説明します。~
登場人物や登場人物が考えた事等は、フィクションです。
今回の主人公は、北野さんです。
北野さんは、田舎の学校を卒業後、とある会社へ事務員として就職しました。
しかし田舎から出てきて知り合いもなく寂しい思いをしてました。
その様子を見て上司の南田さんが、なるべく声をかけて食事なども一緒に行くようになりました。
実は、南田さんは、既婚で、妻子がいます。
が、1年程前より妻子とは別居状態で自分も寂しい日々を過ごしていました。
お互いに寂しいもの同士であった為かいつの間にか交際するようになりいつの間にか同棲するようになってしまいました。
その後、北野さんは、会社をやめてしまい、南田さんに養われて生活をしていました。
そんな状態であったので、南田さんは、自分にもしもの事があっても北野さんが困らないようにしておきたいと思い、遺言書を作成しました。
遺言書の内容は、自分の財産を自分が亡くなった際には奥さんと子供と北野さんに各々3分の1ずつ分割するように指定しました。
その1年後くらいに南田さんは亡くなってしまいました。
そこで、相続が発生するのですが、南田さんの奥さんと子供は、納得できませんので、「遺言書が公序良俗に反しているので無効である」と裁判で争う事になりました。
裁判の結果
・ |
南田さんと奥さんの夫婦としての実態がある程度喪失していた。 |
・ |
子供は既に結婚し経済的にも独立した状態であった。 |
・ |
妻の法定相続分の侵害がなく、生活が脅かす事もないと考えられた事。
(裁判当時の妻の法定相続分は、3分の1) |
・ |
不倫な関係の維持を目的とするのではなく、北野さんの生活の保全を目的とされている事。 |
等を考慮して、遺言書は公序良俗に反していないと判断されました。
その結果、北野さんへの包括遺贈は認められました。
◆参考文献◆
有悲閣 家族法判例百選第7版 176、177頁
不倫な関係にある女性に対する包括遺贈と公序良俗(松川正毅)
用語の補足
●包括遺贈とは何か
まず、
遺贈について
遺贈とは、遺言をする事によって遺言者(遺言した人)の財産を無償で譲渡することです。
遺贈には、「包括遺贈」と「特定遺贈」の2種類があります。
次に、「
包括遺贈」について説明します。
今回のように3分の1等、割合を指定して遺贈をする事をいいます。
包括遺贈を受ける方は、相続人そのものではありませんが、相続人と同一の権利義務を有することになります。
つまり、もし、借金があった場合には、その借金を返済する義務を有してしまう事もあり得るということです。
おまけですが、「特定遺贈」についても説明します。
特定の財産を指定して遺贈する場合の事をいいます。
例えば、「代官山のマンションは、××に遺贈する」という場合です。
●公序良俗とは何か
一般に公序良俗は、「社会の一般的秩序」および「社会の一般的道徳観念」のことをいいます。
今回の判例解説で問題とされた公序良俗に反しているのではないかという主張は、民法の条文(下記)が根拠となっております。
民法 第九十条 |
公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。 |
但し、何が公序良俗に反しているのかまでは条文には書かれておりません。
その為、今回の判例のように裁判所に判断が委ねられる事になります。
編集後記
今回の判例は、自分には関係ないと思われたかもしれませんね。
しかし、この先どのような事があるかわかりませんので知識が有っても損じゃないかなと思って記述しました。
<不倫の当事者の方>
・不倫相手にも遺言書の効能がある事。
<相続人の方>
・遺言書で不倫相手に遺贈が認められる場合があるという事。
なんでも知って損な事はありませんので、このメルマガが少しでも勉強になればいいなと思います。