相続が発生した際に遺産が現金のように簡単に分ける事の出来るものであった場合にその遺産(現金)は、いつから相続人各々の物となるのかについて争われた判例をご紹介します。
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■判例の解説
「保管金返還請求事件」の解説
判例の解説
さっそく判例の解説に入ります。
~最高裁判所 平成4年4月10日 第二小法廷 判決~
遺産分割協議が成立する前に遺産(現金)を保管している相続人へ他の相続人が自分の相続分に相当する遺産(現金)を請求する事ができるか
についての裁判です。
~その内容を以下に物語にして説明します。~
登場人物の名前・家族構成・人物像等は、フィクションです。
今回の主人公は、多田良子さんです。
ある年の春に、多田良子さんは、夫を病気で失いました。
夫は、良子さんとの老後を過ごす資金にしようと考え自宅の金庫に現金を保管していました。(銀行が嫌いだったようです)結局その現金は、遺産となってしまいました。
良子さんは初婚でしたが、亡くなった夫は再婚で前妻との間に子供が4人いました。(皆成人でいて独立して生活しています)
そこで、良子さんは前妻の子供達と遺産分割協議を行いました。しかし、中々決着しません。良子さんは、夫の遺産が現金の為、手元に置く事が心配になりました。
そこで、「夫の遺産管理人名義」で銀行に現金を預けました。
そうしたところ、前妻の子供達は、自分達の相続分に相当する現金を支払うように要求し、裁判をおこしました。
<裁判の結果>
現金は、他の動産や不動産とともに相続人全員の共有財産となります。
この場合、相続人は、法定相続分に相当する分が自分の分だという権利だけを取得します。その為、自分の分を分割して渡すように要求できないという事で決着。
~こうした争いを防げないか?~
今回の事例では、遺産分割協議が出来なく裁判を行っているので相続が発生して相当の年数が経過しても遺産である現金を分割できない状況に陥っています。
遺言書で相続分を指定してあげれば防げたと考えられます。亡くなられた方が、遺される方が争って精神的にも金銭的にも困るような事態を発生させないように遺言書を作成する事で思いやりを表現してくれることが一番良いと思います。
ただ、どうやって書こうかと思ってるうちに亡くなられてしまう事が多いようですので、遺された時に困る可能性があるのであれば、遺言書を書いて貰うようにお願いしてみては如何でしょうか?
遺言書を書く上での疑問点などありましたら、専門家にご相談されると良いと思います。もちろん、私どもの事務所にご相談頂ければ、嬉しいです。
◆参考文献◆
有悲閣 家族法判例百選第7版 136、137頁
遺産たる金銭と遺産分割前の相続人の権利(道垣内弘人)