ある土地の権利を複数の人が共有して持っている時にその中のひとりが亡くなってしまい、更に亡くなった方を相続する人がいない場合に土地の権利はどうなるかについて争われた判例をご紹介します。
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■判例の解説
土地の共有者の一人が相続人なく死亡したときの持分について
■編集後記
判例の解説
さっそく判例の解説に入ります。
~最高裁判所 平成元年11月24日 第二小法廷 判決~
下記のような場合の土地の共有持分が誰に移るのかについての裁判です。
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共有者の1名が亡くなった。 |
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亡くなった共有者には、相続人がいないが特別縁故者がいた。 |
~その内容を以下に物語にして説明します。~
登場人物や登場人物が考えた事等は、フィクションです。
ですので、自分の名前と同じだ!などびっくりしないで下さいね。
今回の主人公は、山田さん夫婦です。
山田さん夫婦は、どちらも早くに両親を亡くしており、自分の親世代の方とお話をするのが好きな人達でした。
特に中村(忠伍・春江)さん夫婦とは、とても親しくしていました。
ある年の冬に中村忠伍さんは、風邪をこじらせて亡くなってしましました。
中村忠伍さんの相続人は、奥さんと忠伍さんの兄弟でした。
残された財産は、土地だけです。
遺言書が無かったので、奥さんと忠伍さんの兄弟で土地をどのように分けるか話し合いをしました。
土地は狭かったので、複数の土地に分割しないで共有することにしました。
春江さんは、夫が亡くなってしまい一人で生活するようになりましたが山田さん夫婦が丁寧にお世話をしたので寂しい思いはしなくてすみました。
そこで、春江さんは、自分には身寄りが無い(相続人がいない)ので自分が死んだら山田さん夫婦に遺産(共有している土地)を貰って欲しいと思っており、山田さん夫婦も春江さんの考えを察していました。
その後、春江さんは遺言書を作らないで、亡くなってしまいました。
山田さん夫婦は、春江さん形見に遺産を分与して貰おうと考え家庭裁判所に特別縁故者として相続財産の分与の申し立てを行いました。
家庭裁判所は、山田さん夫婦に春江さんの遺産(共有している土地の持分)を分与する事を認めました。
そこで、山田さん夫婦は、法務局に春江さんの土地の持分を自分達に移すように申請をしました。
ところが、法務局の登記官は、山田さん夫婦に、春江さんの土地の持分を移す事は出来ないと拒否した為、裁判で争う事になりました。
<争いのモト>
民法に以下のような定めがあります。
1. |
相続人がいない場合には、相続財産は国のものとなるが特別の縁故があった人が相続財産の分与を請求し家庭裁判所が認めた場合、相続財産は、特別の縁故があった人のものになる。
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第九百五十八条の三(特別縁故者に対する相続財産の分与) |
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第九百五十九条(残余財産の国庫への帰属) |
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2. |
土地を共有している時に共有者が相続人無しで亡くなった場合には亡くなった共有者の持分は、生存する共有者のものになる。
※どちらを優先して考えるかによって結果が異なることになります。 |
<登記官の主張>
共有物には、上記2.が適用されるため、他の共有者に持分が移る。
その為、特別縁故者には移らない。(だから山田さん夫婦へ登記できない)
<結果>
特別縁故者への相続財産の分与が、共有物の場合と共有物ではない場合で結果を異なるようにする合理的な根拠が無いので、上記1.を優先して考えるべきだ。(つまり山田さん夫婦へ登記できる)
~こうした争いを防げないか?~
●まず、中村忠伍さんの相続に関して
中村忠伍さんが、奥様に土地を相続すると遺言書を残しておけば、土地を共有する事が無くその後の争いも無かったと思われます。
●次に、中村春江さんの相続に関して
遺言書を作成していれば、このような裁判は必要なかったと思われます。
また、特別縁故者が相続財産に分与されるには複雑な手続きと時間が必要。
遺言書を作成していればこのような手間や時間が節約されます。
(もし、春江さんの本心では山田さん夫婦には渡したくないと思っていたのであれば、尚更遺言書を作成するべきですヨ。)
◆参考文献◆
有悲閣 家族法判例百選第7版 108、109頁
特別縁故者への遺産分与対象としての共有持分権(國府剛)
編集後記
遺言書は、相続を争族にしない為に必要なものとは思っているけど書いてないと今すぐに困るものでは無いので、後回しにされがちですよね。
そのまま後回しにされた状態でご本人様が亡くなってしまい、残された者が困るというパターンがほとんどではないでしょうか。
それでは、将来困る人が、「遺言書作ってよ!」って言えるかといえばなんか言い難いですよね。